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和紙の製造工程

和紙づくりは大きく「原料を処理する工程」→「原料を加工する工程」→「紙漉き工程」に分けられます。

和紙の製造工程

原料の処理

黒皮の収穫

楮は落葉した後11月か12月に収穫され、4尺(1.2メーター)に切りそろえられます。樹皮を簡単に取るために、独特な用具を使い蒸されます。下(もと)から「うれ」に向かって、一気に剥がします。剥がされた黒皮は一握りの束にされ、風通しのよいところで乾燥します。乾燥したのち5貫(15Kg)束に梱包されます。そして、黒皮のまま保存し、必要な量だけ取り出して使用するか、暖かくなるのを待って白皮に加工します。手漉き和紙は簀桁(すけた)という用具を使ってつくられます。簀桁は竹ひご、萱ひごを使って編まれた簀に桁を取り付けたものです。簀を編むには強じんな生糸が使われ、一定間隔で糸の締まり具合を均一にしなければなりません。
また、漉く紙の種類によって竹ひごの太さは異なります。
一枚の簀を編むのに一週間ほどかかります。
桁は木目のよく通ったひのき材を使い狂いが生じないように、また原料をくみ込んだときに水平になるように、わずかに山形に湾曲させてつくられています。
上桁と下桁で簀を鋏み込み使用します。

黒皮の収穫

黒皮取り〜繊維の下準備

柔らかくするために、乾燥した皮を数時間から一晩水に漬けておきます。
柔らかくなった黒皮を除去するために、水の中で皮を踏みます。足のふくらはぎで皮の表面をこするように交互に踏み、黒皮を落とします。繊維を痛めないように作業を進めるのが肝要です。
皮(靭皮部)は黒皮、青皮、白皮の三つから成り立っています。塵入り紙 のように黒皮を残して漉く場合もありますが、上質紙ほど黒皮、青皮を取り去り白皮のみにします。

黒皮取り

皮剥ぎ

ナイフで下からうれに向かって、青皮を丁寧に削り取ります。芽、枝の痕あるいは枝と枝がこすれて傷になったところが、茶褐色に変色して堅くなっています。これらはゴミとして残りますので、すべて取り去ります。
ただ、出来るだけ他の部分は傷つけないように注意をはらい、ばらばらにならないように丁寧に扱います。
出来上がった白皮は、乾燥して次に使うまで冷暗所に保管して置きます。

皮剥ぎ

原料の加工

原料の煮熟

保管してあった楮を煮熟前に一昼夜、流水に侵積します。
こうして繊維を柔らかくして煮熟剤の浸透を良くし、煮熟を助けます。また、こうすることにより、可溶性物質を溶出します。 その後、水の中で十分に洗い、繊維に付いている取り残しの黒皮やゴミを洗い去ります。
次にアルカリ液で繊維を煮ます。伝統的には木灰からアルカリ液(炭酸カリウム)を抽出し煮熟剤としてきました。現在では石灰(水酸化カルシウム )、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)又は苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を用途により使い分けています。煮熱剤の量は、石炭を使用する場合、乾燥原料重量当たり20%、ソーダ灰は18%、苛性ソーダは15%前後を目安とします。
水量は原料重量に対し約10倍以上が必要です。少なすぎるよりは多めの方が良いようです。繊維が液中に沈む位を多めの上限とします。火加減は煮沸するまでは強火で、煮沸後は沸きこぼれない程度の火加減に保ちます。煮沸後30分もすると繊維は柔らかくなりかさが少なくなり液中に沈みます。その時上下をひっくり返し、炊きむらにならないようにします。

繊維に含まれている非繊維質の残量で和紙の質、及び風合いが決まります。強い煮熱剤は多くの非繊維質を溶出し紙を柔らかくし、弱い煮熱剤は非繊維質が多量に残り腰のある堅い紙を作ります。また、煮熱剤の化学組織により紙の色目や風合いに微妙な変化が現われます。用途にあわせて経験値で煮熱剤の選定をし使用しています。
煮沸後2時間位で煮熱の具合を検査します。繊維を横に裂くと細い繊維の組織が徐々に広がるように開くか、指で引っ張ってちぎれるようになった時、繊維は十分に炊けています。

原料の煮熟
原料の煮熟

ちり取り

炊くとアク(灰汁)が出ます。
本来、アクとは水に灰を混ぜて作った上澄み液を言いますが、ここでは煮熱液を総してアクとよびます。
煮熱完了後、一昼夜放置し蒸らします。その後、流水の中に浸しアク抜きをし、アルカリ液に溶出した非繊維物質を取り去ります。
次に、丁寧にちり取りをします。 楮の場合は機械で行うことが難しいので、すべて手作業で行ないます。
水中にかごを入れ、その中に適量の繊維を入れてちりを取ります。この作業は傷、芽、炊きむら、変色した部分を除去します。すでに膠(にかわ)質などが溶出しているので繊維は水中でたやすく離解しようとします。
良い繊維を保つために、皮は出来るだけ離解しないように丁重に取り扱います。
白い紙を必要とするならば、このちり取りの工程の前に漂白を行います。一般的に漂白は次亜塩素酸ナトリウムを使用しますが川晒(かわさらし)、雪晒(ゆきさらし)等と言って自然の力により漂白することもあります。

ちり取り

打解

ちり取りされた原料は打解されます。
打解はたたき棒で石板か堅木の板の上で丁寧にたたいて、束になっている繊維を一本ずつばらばらに離解します。
今は打解作業も機械化されて、動力臼でたたいたり、水の中でナギナタ状の刃を回転させて繊維を分散させるビーターなどが使われる場合が多いです。
共に繊維を水中に遊離分散するために行います。

打解

紙漉き工程

1紙漉き〜流し漉き/溜め漉き

流し漉き

流し漉きで和紙を漉くときに「掛け流し」、「調子」、「捨て水」の三つの工程があります。
最初は浅く汲み込み、簀全面に繊維が薄く平均にゆきわたるようにすばやく操作します。すばやい動作は、表面にちりなどの雑物が付くのを防ぎます。この工程は紙の表面を作り、「掛け流し」あるいは「初水」と呼ばれます。
次の汲み込みを「調子」と呼んでいます。最初よりやや深く汲み込み、簀桁を動かして繊維を絡み合わせます。求める厚さになるまで何回も汲み込んでは揺り動かします。天井から吊った竹の弾力を利用して、汲み込まれる水の重さを軽減しながらバランスよく揺り動かします。
漉かれる紙の種類や地域で動かし方が異なります。
最後に、簀の表面に残った水を捨てます。これを「捨て水」といいます。紙が漉きあがったら、簀は桁からはずして、紙または毛布を敷いた紙床板(しといた)に置き、紙と紙の間に空気を入れないように伏せていきます。
このとき、上に上に紙を積み重ねていくので、ゆがまないように目安の定規にあわせて積んでいきます。
伏せた簀は手前から向こう側へ剥がします。

紙漉
紙漉 流し漉き

溜め漉き

溜め漉きは古来から行われてきた方法で、「ねり」を使わず、水中での分散をよくするため繊維が短くよく打解された原料を使っていました。
打解度の高い原料は1回の汲み込みで地合い(紙の質)を作ることが出来ました。現在、溜め漉きにより作られている紙に、「はがき」や「卒業証書用紙」などがありますが、これらの原料はあまり打解をしない、流し漉き用のものを使っているため、簀からの水漏れを遅くするため「ねり」を加えています。
乾燥は湿紙同士がくっつかないように間に紙を挟んで重ねていったり、すぐに脱水をして板に張りつけて乾かします。
(ムービーは、はがきを漉いているところです。)

紙漉 溜め漉き

圧搾

湿った紙を重ねて出来た「紙床(しと)」を一晩そのまま置き自然に水分を流したあと、さらに残った水分を取るために少し大きめの板で挟み圧搾機で重力を加えて脱水します。
紙の層を傷めないように最初は弱く、次第に強く、6時間余りをかけて圧搾していきます。
出来るだけ強く水を搾り出すことにより緊縮性に富んだ腰のある紙となります。水分含有率は70%位になります。

圧搾

板張り〜乾燥

圧搾を終えた紙は一枚ずつ干し板に張りつけ天日で乾かしたり、蒸気を用いた乾燥機を使って乾かします。
干し板は、松、とち、桧の木などを用います。中でもイチョウの木を用いたものを最良としますが、これは木の肌の平滑さと余り太い木がないために珍重されたためのことと想像します。
濡れ紙を紙床から剥がす場合には、紙を紙床面に平行になるように持ち上げます。平行に持ち上げずに、手前に持ち上げると、紙にしわが寄るためです。剥がれた濡れ紙は乾燥機の上に置き、刷毛でなでつけます。刷毛の運びは繊維の流れに逆らわず均一に力のかかるようにします。
また、「自然(板干し)乾燥」と「強制(蒸気)乾燥」では自ずと仕上がりが違ってきます。特に厚い紙を乾燥した場合には、「蒸気乾燥」ですと起毛がおこりやすくなり、また、過乾燥になりがちです。
仕上がった紙は、用途により「ドーサ」「こんにゃく」や「柿渋」を塗ります。また化学染料や草木染料(自然染料)で染めたり、揉み紙や縮緬(ちりめん)のような紙を作るために加工されます。
こうして作られた紙は素材そのものを楽しみながら、美術素材としてもいろいろな用途に使われます。

皮剥ぎ
板張り〜乾燥
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